Inkscapeが0.92にバージョンアップされ、今まで隠し機能だったグラデーションメッシュ(Mesh gradients)が公式になった。
(ただし、「Mesh gradients are part of SVG 2」として、さらに変更があるかもしれないこと、印刷やWebブラウザなどに対応していないことが注記されている)。
私は以前、Ver.0.91でグラデーションメッシュを使ってみようと思って試してみたがすぐに挫折した。Web上にあるグラデーションメッシュの解説はたいていIllustratorのものなのだが、IllustratorのグラデーションメッシュとInkscapeのそれは微妙に違っていて、そういうtipsにあるようなことはInkscapeではできないと思い込んでしまったのである。しかし今回、改めていろいろ試してみて分かったことがあるのでそれを書いてみる。Inkscapeのメッシュは、Illustratorよりも使いやすいか、またはそうなる可能性がある、というのがこの文の趣旨である(ただし、私はIllustratorを所有していないし使ったこともないので、Illustratorのグラデーションメッシュについては、Webその他の情報による間接的なものであることをお断りしておく)。
さて、両者の違いだが、その最大のものは、Illustratorではメッシュはそれ自体が一種のオブジェクトであるのに対して、Inkscapeでは線や面の「塗り」という位置づけであり、それ自体はオブジェクトではないということである。Inkscapeのメッシュは、Illustratorでメッシュオブジェクトを線や面によってクリッピングしたのと同じである(繰り返すが、これはWeb上の情報からの推測である)。このようにInkscapeではメッシュはオブジェクトから独立した存在であるので、メッシュを使用したり戻したりがIllustratorと違って容易である。また、パスをメッシュ化するとき、Illustratorではパスの形に添ったメッシュになるようだが、Inkscapeでは碁盤の目状と放射状の2種類が、オブジェクト内かパスを囲む長方形に沿って作られるだけである。
そして、これはインターフェイスの問題だが、Inkscapeのメッシュツールには、メッシュポイントの下の色を取得するボタンがある。そして重要なのは、複数のメッシュポイントを選択してこのボタンをクリックすると、各メッシュポイントのそれぞれの下の色を取得できるということだ。つまり下絵さえあれば、「ポイントを選択>色を取得」という作業を全ポイントに対して行なうという単純作業をしなくてもよいのである。これは、illustratorではプラグインを導入しなければできないことのようなのであるが(参照:
[Illustrator] Illustratorリアルイメージ・レクチャーブック(1) - イラスト描きかた調査団 [Illustrator] Adobe Illustratorリアルトレース実践マスター(1) - イラスト描きかた調査団)、Inkscapeでは初めから可能となっている。これは、写真を精密に模写する「リアルトレース」という技法を、Inksapeのほうが簡単に試すことができるということである。そのようなリアルイラストでなくとも、この方法を使えば、元になる写真さえあれば、ともすればベタ塗りの図形の組み合わせになりがちなベクター画像にもっともらしい質感を与えることが容易になる。現在はまだ他のアプリケーションが対応していないが、このメッシュはSVG2の規格に含まれるので、今後Webブラウザを始め、多くのソフトにグラデーションメッシュを使用したSVGを表示させれるようになるはずである。
もちろん難点も多い。Illustratorのメッシュはメッシュのマス目にも色が指定できるようだが、Inkscapeでは、あくまでメッシュの交点にしか色が付けられない。さらに、llustratorには回転ツールというのがあり、ポイントの編集にも使用できるようであるが、Inkscapeはオブジェクトは回転できるが、ポイントを回転するツールはない。多くのtipsに、単純な矩形にメッシュを設定しそれを変形していくと綺麗なメッシュが作りやすいと書いてあるが、そういうやりかたをした場合、回転ツールがないとメッシュの角度を変えることが大変になってしまう。
そして、これはかなり大きな問題であるが、Inkscapeでは、メッシュのポイントやラインを削除する方法が無いようだ(SVGエディタで編集できるかもしれないが、まだ試していない)。これはこの機能がまだ未完成であることを示しているが、ベクター画像の可能性を大きく広げる可能性のあるものであることは間違いないわけで、使ってみて損はないと思う。